水と文化研究部会
(所期の目的達成のため部会活動を終結した)
- 名 称: 水と文化研究部会
- 趣 旨: 時を経て現在まで受け継がれ、育てられてきた文化遺産と歴史環境は、国境を越えて人々のこころの支えとなっています。それは、時々の新しい文化の集積であり、時空を越えた存在でもあります。これまで歴史環境とアートとの関 わりは、建造物のライトアップ、建築内での音響や映像、舞踊などと、領域ごとにおこなわれてきましたが、この部会では、環境芸術の視点から、総合的にこの環境を検証し、新しい芸術との融合のあり方と実践のかたちを研究します。
- 部会長: 田村吾郎
- 幹 事 : 池田政治、前田 義寛、宮川輝行、横川昇二、
- 連絡先: 東京都港区六本木7-17-24 サイド六本木 IPA内
tel : 03-3746-1571/fax : 03-3746-1592 - その他: 活動の期間は3年を区切りとし、研究の継続については部会で審議し、新たに3年とする。
- 活動報告: 水と文化研究部会は、平成16年度から「水と文化」をテーマにフィールド調査活動を行ってきた。16年度には山形県山辺町の白鷹山麓「作谷沢」を調査した。
17年度は、新潟・津南町を対象に、湧水と地域文化について調査した。
調査の結果、良質の水が豊かに湧き出している地域であること、地域に伝統的な水を使用する決まり(水利権)が厳然と存在し、現在も生活のなかにその名残を留めていること、などが明らかになった。二作矢沢、津南町に共通することは、いずれの地も現在過疎化が急速に進んでおり、今の時期を逃すと長年培われてきた地域の文化や生活の伝承が急速にその姿を消していくということである。水を護ることは樹林を護ることである。樹林を護るということは、道、水路、家、里、集落、畑、山を護ることにつながる。水を媒体としてこれらの関係は繋がっている。そしてこのことが風土と芸術を考える上で大事なことなのである。
18年度、19年度においては、上記のフィールド調査を踏まえて、水と環境芸術の関わり方をテーマに水と文化研究部会内での勉強会等を実施した。
20年度は、環境芸術学会第9回大会「コラボの時間」展示に参加した。開催地横浜にちなみ、三浦半島西海岸に漂着した陶磁器破片のコラージュと映像、音楽によるインスタレーションを発表することで大会テーマ「環境・交叉する時間」への部会からのメッセージとした。
2010年度 [水と文化研究部会・2010年度の活動]
「川の国 埼玉」にみる川と生活文化の調査について
●部会研究活動の推移
水と文化研究部会は、2006年度より「水と文化」をテーマに調査研究を継続してきた。
平成16年:山形県山辺町、白鷹山麓「作谷村」現地調査
平成17年:新潟県津南町、「竜ヶ窪の水」(湧水)現地調査
平成18年:「水と文化」研究会議(第1回)
平成19年:「水と文化」研究会議(第2回)
平成20年:「環境・交叉する時間―漂着陶磁器破片によるインスタレーション」
環境芸術学会第11回大会が埼玉県で開催されるのにちなみ、平成22年における水と文化研究部会は「埼玉県の川と生活文化考察」を実施した。
●埼玉の河川
長瀞渓谷「彩の国 さいたま」は「川の国 埼玉」であり、県内をながれる川の面積は日本一である。また県土に占める河川の割合は3.9%で日本一という。(湖沼、用水路を含めると、①滋賀県、②茨城県、③大阪府、④埼玉県の順となる)さらに、川幅においても埼玉県は、鴻巣、吉見を流れる荒川の川幅は2500メートルで日本一である。
このような川の流れとその流域の豊かな自然を有する埼玉県は「川の国」として河川整備計画や河道整備、総合的治水対策などにより「自然と人にやさしい川づくり」を重点政策としている。
●「水辺再生100プラン」の推進
埼玉県では、地域と行政が一体となって、「川を愛するムーブメント」を展開している。
① 水辺の里親制度
県が地域の団体(里親)、市町村と協定を結び清掃活動を支援している。
② 里川づくり県民運動
家庭での台所排水対策、環境教育、清掃活動など、生活排水対策に注力している。
埼玉県における主な「川の再生」への取組みは以下のとおりである。
① 清流の復活
水環境の改善、川の浄化ムーブメント。
② 安らぎと賑わいの空間演出
自然や親水機能の保全・創出。
③”せせらぎ”づくりの推進
川口市「藤右衛門川」の水辺を劇的に変えるプロジェクト推進、沿川の企業や地域に愛される河川空間の創出等。
④生態系にやさしい昔の水辺再現
所沢市柳瀬川の生態系は変わってしまった。魚類が少なくなった川を再生、やさしい水辺環境を取り戻す。
●「川の国 埼玉」の文化
・アーチストの活動
川口市内の川べりで遊ぶ子ども川口市内のアーチストも、「川の再生」に向けて立ち上がっている。かつて鋳物工場だった空間をアート・ファクトリーに変身させ、「KAWAGUTI ART FACTORY」が誕生した。アーチストたちは、川口市内を流れる旧芝川(全長5.8キロ)が、現在は水の流れが止まった閉鎖河川となっていることから、これを地球環境問題の縮図ととらえ、「川を見る」アートイベントを実施した。写真、インスタレーション、フラワーデザイン、ワークショップなどさまざまな表現芸術を通して市民たちに「旧芝川をミル」ことを呼びかけた。環境アートが現実社会の役に立っている好事例だ。(2010.9.4~13)
・「川の国」の民話の採集
埼玉県内における水に関わる民話の幾つかを紹介する。「川の国」埼玉らしく、河川や水辺にちなんだ説話や伝説が豊富である。
「河童伝説」(所沢市)、「袖引き小僧」(川島町)、「おいてけ掘」(川越市)、「脚折雨乞行事」(鶴ヶ島市)などが代表的な民話として継承されている。
●結論
埼玉県には川がたくさんあり、かつては美しい水辺環境が人々の暮らしに潤いをもたらし、民話のふるさとといわれるような地域文化を育んできた。しかし、時代の変化とともに、埼玉の都市部の水辺にも環境破壊の深刻な問題が発生している。自然環境に恵まれた美しいふるさと埼玉を次世代に引き継ぐために、県としては「水辺再生プラン」を掲げ、4年間で100箇所の川の再生を図る計画を推進中だという。そうした流れの中で埼玉県民には「かわの守り人」として、川の再生に積極的に参加することが期待されている。川口におけるアートプロジェクトの事例が示すとおり、河川環境についての住民の関心を高めその意識向上を図るためには、環境芸術の果たす役割が多いことを再認識した。
・写真説明 長瀞渓谷(埼玉県秩父市)
・環境芸術学会 水と文化研究部会
池田 政治 田村吾郎 前田 義寛 宮川 輝行 横川 昇二