新しい茶の湯のためのスタディ 2020
札幌市立大学大学院デザイン研究科博士後期課程修了 博士(デザイン学)
周辺環境に対して新たな体験を創出する屋外インスタレーションを主たる表現とし、日常では意識されない「見えない景観」をテーマに制作実践と研究を続けている。また、映像メディアの空間特性に着目し、自らの空間作品や、他者のパフォーマンスなどの映像制作を通して、空間を切り取る撮影手法を模索している。
新しい茶の湯のためのスタディ
2020秋田県秋田市 秋田OPA
2020年の新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、ソーシャルディスタンスの確保や三密の回避など、人と人が対面する状況において大きな制約が設けられるようになった。また、「不要不急」という言葉のもと、様々な文化活動が制限され、今なお再開の目処が立たない文化活動も多くある。日本の伝統文化の一つとして世界に広く知られる「茶の湯」もその例外ではない。茶の湯の稽古や茶会では、人が密集する状況が生まれやすい。特に、国宝『待庵』のような狭小空間で行われる茶会では、たとえ亭主と客の2人しか茶室の中に居なかったとしても、ソーシャルディスタンスの確保が難しく、感染症拡大防止の観点から見れば、思わしくない状況が生み出されてしまう。
しかし、茶の湯の作法を読み解いてみると、客が亭主のために用意するお土産(御水屋見舞)は個包装のものが良い、亭主の許可があるまでは、客は茶室の外(待合)で待つ、茶室に入る前には必ず専用の鉢(蹲踞)の水で手と口を清めてから入室する、など、感染防止のためのマナーと共通する点が散見される。本企画では、茶の湯の作法と空間性を読み解きながら、コロナ禍において実践されるべき【新しい茶の湯】の形態を見出すための試みとして、茶室を公共空間に立ち上げ、実際に茶会をとり行う。【新しい茶の湯】の実践と、そのために制作した空間を多くの人に鑑賞してもらい、人と人が対面する活動を行う上での新たな気づきを得るためのスタディとなることを期待したい。
作品サイズ: W 4.5m / D 4.5m / H 2.4m 素材:杉
協賛:秋田プライウッド株式会社(材料提供)
制作協力:高橋琴美、三待あかり、渡邉泰地
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山見櫓/八木沢参道
2019秋田県上小阿仁村
上小阿仁村の八木沢集落は周囲を山々に囲まれ、かつては集団で狩猟を行う「マタギ」の里として知られていた。狩猟を生業とする彼らにとって、山は多くの恩恵をもたらすと同時に、容易にマタギの命を奪い去る恐怖の対象でもあった。山には獣や植物を統べる存在である「ヤマノカミ」すなわち「山神」が住むと信じられ、深い畏敬の念をもってマタギたちによって祀られていた。八木沢集落最後のマタギが2009年に猟銃を手放したことで、八木沢と周囲の山々にマタギの姿は無くなった。マタギが消えたここ八木沢において、もはや山は信仰の対象とは言えない。かつては複数存在したという、山神を祀るための社も、現在では集落内の「山神神社」一つを残すのみである。しかし、人と山との関わり方が変化しても、山は依然として人間の力が遥かに及ばない存在として確かにそこにあり続けている。マタギを失った山々に今一度祈りを捧ぐための空間を、八木沢集落に制作した。
櫓 : 高さ3m ,参道:総延長50m 素材:杉
協賛:秋田プライウッド株式会社(材料提供)
制作協力:三上理沙、高橋琴美、松山さくら、森山之満
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