Active Soundmark 2024
2024年、秋田公立美術大学大学院複合芸術研究科複合芸術専攻修了。博士(美術)。
宮本は、サウンドスケープ(Soundscape)と身体の相互関係に着目した芸術実践に取り組むアーティスト・研究者である。サウンドスケープとは、1960年代後半に作曲家のR.マリー・シェーファーによって提唱された思想であり、環境の音を単体で個別に対象とするのでなく、一つの総体として捉え直そうとするものである。環境音の観察や保存、環境の中に生まれた新たな音を評価すること。近年では、それらの環境音を用いた創造的な実践研究も進められてきた。しかし、これまでのサウンドスケープ研究においては、観測者が音を発してはならないという暗黙のルールがあるように感じている。そのような違和感から宮本は、人間が観測者であり行為者でもある状況を作り出すことで、サウンドスケープとの対等な関係を構築するための在り方を探求している。
● WEBサイト
https://www.kazuyuki-miyamoto.com/
● researchmap
https://researchmap.jp/kazumiya
Active Soundmark
2024H∞L Gallery(青森県八戸市)
本作品は、八戸学院短期大学幼児保育学科の学生を主な対象に実施したワークショップ「校舎の音のタカラさがし」の成果物を再構成したサウンド・インスタレーション作品である。ワークショップでは、美術室内の「モノ」に触れることによって生まれる音を収集し、それらの音を振り返りながら独自の「オノマトペ」が表現された。宮本は、これらの環境音が人間と環境が共に作り出した「能動的な環境音(Active Environmental Sounds)」であると捉え、学科棟学生ホールに位置するH∞L Galleryを音の共鳴装置に見立てることで、学生たちが賑わう場に「音のランドマーク」を創出させた。
01
雪面の歩行
2023BIYONG POINT(2023、秋田県秋田市)、ギャラリーももさだ(2024、秋田県秋田市)
北海道中央部に位置する大雪山のヌプントムラウシ避難小屋を目指して雪山に入る。新得町屈足の曙橋を起点とし、除雪されていない雪道を延べ二日かけて十二時間ほど歩き続けた。その道中、なるべく一定の速度で歩き続けることを試みたのだが、足を踏み出すたびに実に多彩な反作用が雪面から返ってくる。視界はぶれながら、全身で雪面を踏み締める。やがて、呼吸と心拍が同調し、これまでの足音=雪音が多彩に変化していることに気づきを得た。また、途中から道は無くなり、険しい斜面積雪をトラバースしながら目的地を目指した。
本展覧会では、この雪面を歩き続けることによって得られた体験を再表象するサウンド・インスタレーションを展示する。展示室内に設置した舞台の上を、歩く/ 立ち止まる/ 寝そべるといった様々な行為を通じて、環境との相互交流を体験してみてほしい。
02
共振する躯体
2021松花堂庭園・美術館(2021、京都府八幡市)、秋田市文化創造館(2022、秋田県秋田市)
この作品は、2020年度のレジデンスで宮本が木津川に架かる「流れ橋」を他者として捉え、共に音を生み出す体験から構成されたインスタレーション作品です。まず宮本は、本橋をひとつの大きな鍵盤打楽器に見立て、およそ1,780桁ある橋桁を一定の速度で一枚ずつ鳴らすことを試みました。そして、その音を起点に上津屋橋の静かな豊かさが溢れた空間を展示会場に再構築したのです。人が歩くことによって生み出される足音は、「無意識のうちに聞き流されている場合がほとんどである」と宮本は語ります。しかし、実は「素材や環境などの状況によってその音響効果には微細な変化が現れている」と考察し、八幡の一面を顕にするモノとして着目しました。鑑賞者は、この作品の上を歩くことで「作品とともに発する自らの足音」と「表現された足音」の調和を体感することになります。本作は、人工的な展示空間での芸術鑑賞を通じて、鑑賞者に場所と人の関係性を再考する体験を提示しています。(八巻真哉「ALTERNATIVE KYOTO:もうひとつの京都」より引用)
03
知覚の外縁
2021BIYONG POINT(2021、秋田県秋田市)
本作品は、視覚・聴覚・触覚からなる3つの感覚を組み合わせることによって、知覚の外縁に触れることを試みる展覧会です。BIYONG POINT内に特定の自然環境を再構築することを通じて、我々が空間を体験する上で認識している様々な感覚の関係性を読み解きます。今回は、秋田県五城目町に位置する「ネコバリ岩」の周辺環境を対象としました。「ネコバリ岩」は五城目町南端を流れる馬場目川上流部にある、高さ6mを超える巨岩です。川縁にこの巨岩があることによって、水の流れや音の流れといった周辺環境には大きな変化が現れています。
インスタレーションと呼ばれるアート作品は、視覚的な経験に限定されているように見えて、周囲の音環境や、会場自体の空間体験が内包されています。空間の鑑賞体験における周辺環境―既にその場に存在している「音」や「床」―への意識は潜在的なものです。ただし、鑑賞者が空間に広がる音やその場に立っている身体感覚に意識を傾けることによって、より豊かな鑑賞体験に繋がると考えています。
04
接触の形跡
2020ブルーホール(秋田県潟上市)
本作品における音の主体を捉える際に、主体と客体の入れ替え可能性=対称性が挙げられる。鑑賞者が発する音はブルーホールが発する音でもあり、またブルーホールに響く音は鑑賞者の身体内部に響く音でもある。つまり、音を捉えることは身体的であり触覚的な行為であると捉えることができる。視覚と聴覚は距離を取って認識することのできる上位の感覚であるのに対して、触覚は触れることでその内部情報まで感じ取ることのできる「ゼロ距離」あるいは「マイナス距離」の感覚である。会場内を歩いて回る時に発生する足音への気づきは、スピーカーから発せられる音響と聞き分けることによって、この空間のスケールを身体感覚で感じ取ることができる。また、音響記譜のグラフィックパターンは、空間に響き渡る表現された音響の解釈を促す。以上のことから、インスタレーションの鑑賞体験において、表現される空間を認識する上での視聴覚感に生まれる「ズレ」をつなぐために、「触覚的体験」を意識的に取り入れることは有効であったと言える。(宮本一行「インスタレーションにおける共感覚的知覚に関する研究」より引用)
05