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活動報告

環境芸術学会第4回大会 概要報告
10月25日(土)〜26日(日)
於:アクアマリンふくしま 小名浜海陸運送6号倉庫
■ 環境芸術学会第4回大会「環境・交流・芸術」 報告
去る10月25日・26日、福島県いわき市小名浜において、環境芸術学会第4回大会が開催された。海に面したすばらしい環境の中、『小名浜国際環境芸術祭』との共催で地元の方々の協力・交流のもと、たいへん充実した大会であった。

□エクスカーション/10月26日(土曜日) 午前 / 五浦美術館・六角堂 (茨城県北茨城市)

五浦六角堂訪問
  木戸 修
海は荒れていた。重くたれこめた灰色の雲は水平線を隠していた。絶壁に立っていることを感じさせるのは、砕け散る波と海を渡る強風の音。海風に鳴る梢の包む天心亭が、わずかに当時の面影をしのばせる。湾の向こうまで見渡す限りの広大な敷地に展開していた日本美術院の痕跡は、今は無い。石碑は残るが、それを支える鉄枠は地震に備える為とはいえ、あまりにも無粋。
平櫛田中の木彫の名作「五浦釣人像」は狭い展示室で肩をすくめ、頭を押さえる低い天井では自由に釣竿を振ることもかなわない。瞑想にふけるための六角堂が建つ岩場の足元は太平洋の荒波でえぐられ、コンクリートの無残な補強は海の先まで広がり、景色の変貌のぬぐいようもない悪い予感。これが、茨城大学五浦美術文化研究所の懸命の努力をもってして、かろうじて保存されている五浦六角堂の現実だ。
しかしそれにもかかわらず、太平洋の怒涛のように圧倒的な迫力を持って押し寄せてくるこの気配は一体どこからくるのだろう。横山大観、下村観山、菱田春草、木村武山をこの地に呼び寄せ、理想を高く掲げて日本の文化に大きな足跡を残した巨人。帝国博物館、東京美術学校の礎を築き上げ、インドの独立運動に影響を与え「東洋の理想」「茶の本」を著し美を追求し激しく生きた五十年。
「岡倉天心」の生涯に心をはせながら、高揚した気分で小名浜港に向かう。

□エキシビション「環境芸術の現在2003」展
作品発表・パネル発表/10月26日(土曜日) 27日(日曜日)  
小名浜海陸運送6号倉庫


倉庫での作品発表を見て  行武治美
今回の大会の作品発表は、海沿いの倉庫を転用した大空間を用いて行われた。倉庫や廃墟ビルといえば、海外だとお金のないアーティストが用いる常套的な発表会場であり、メインストリームに取り上げられる前のアングラなエネルギーに満ちた場という印象がある。学会の作品発表の場に倉庫を用いた今回の展示も、ホワイトキューブでの展示にはないエネルギーがあり、また地域社会に根付いた現実の環境を会場として選んだその行為自体、学会の趣旨にマッチした素晴らしい選択だったのではないだろうか。
会場の薄暗い空間に入ってまず目に付くのが、シリコン製のぬめッとした怪しい素材感が目を引く巨大なベロ。その横で涼しげにキネティック作品がくるくる回っている。会場中央には巨大な肥料の山が赤いライトに照らされており、その山に魚影が写る。関係者でなくとも、会場入口をちょっと覗くと、中で何をしているのか興味をそそられる空間だと思う。短い展示時間で本当に良くまとめられたなあと感心したが、出品者のほとんどが遠方からの大会出席者であること等の諸条件から、発表できる作品は簡単に移動でき、すぐに展示可能なことが必要条件のように見受けられた。この点は環境芸術を考える学会の発表としては今後考えなければいけない課題ではないだろうか。出品作品も、環境という広義のキーワードで集う様々な内容ゆえ、やや印象にバラバラ感は拭えない。造形作家、デザイナー、科学者、教育者、建築家、等々といった全く違う分野の人々が集まるこの学会のすばらしいリソースが上手く活用される発表のデザインが望まれるのかもしれない。巨大水槽前でのデジタル音楽と笙の演奏のような、美しいハーモニーを見せる展示発表が出来たら素晴らしいのではないだろうか。
学会員の自作品紹介スライドも作品発表会場で同時に紹介されていた。これは10分位で一回りしたであろうか、実に程良い分量で、飽きることなく堪能できた。大きなスクリーンへの映写で、作品の実体も想像しやすく、作品発表会場が大会会場から歩いてアクセスできるなど、前年度からの改良点も多かった。実社会に根付く空間を会場にした今回の作品発表は、少々の問題点をかかえつつも、確実に今後の「環境芸術学会」の発展を予感させる素晴らしいものだったと思う。企画展示をされた方々に深く感謝したい。




□キッズワークショップ/10月25日(土曜日) 展示 : 26日(日曜日)   
小名浜海岸・小名浜海陸運送6号倉庫


大会を盛り上げた地元参加プログラム
"キッズワークショップ"開催の意義は大きかった  前田義寛

環境芸術学会第4回大会イベントのひとつであった「漂着物でアートしよう」(キッズワークショップ) は、10月25日(土)、いわき市小名浜海岸と大会展示会場 (小名浜海陸運送6号倉庫)で実施され、小名浜まちづくり協議会を中心とする地元関係者の協力を得て約30名の親子が参加して行われた。
このワークショップは、神戸や淡路島でこの種の子供たちを対象とするアートワークショップの企画と指導で豊富な経験のある谷口文保さん(学会員) と、海岸漂着の陶磁器破片の採集活動を続けてきた私が、共同で企画立案し、当日の運営・指導を担当したものである。このワークショップは、地元の子供たちに親しまれている海岸で、貝殻、木片、陶磁器破片、ガラス片、小石などを拾い歩き、それらを素材に創作造形を楽しんでもらおうというものであった。子供たちは谷口さんの指導で、貝殻、ガラス片などさまざまな漂着物を使って思い思いの小さなアート作品を創作した。展示会場の一角に子供達の作品が群をなすかのように集合展示されると、子供の感性がもたらした「環境アート」の風が吹き始めたかのようだった。
このワークショップは、学会としてははじめての企画であったが、地元の子供たちの参加により、実施を通じて学会が地域社会と接点を持つことができたこと、漂着物採集によるアートワークという点で、環境芸術のひとつの側面をきわめてわかりやすい形で開示できたこと、地元紙が取材・報道してくれた、など多彩な成果を挙げることができたと思う。「環境芸術」は、まだまだ一般市民にはなじみの薄い言葉であり、活動であることは否定できない。今回のキッズワークショップは、その環境芸術を極めてわかりやすい、親しみやすい形で実践し、市民 (子供が中心ではあったが)の皆さんが参加してくれたという意味で、学会活動のひとつの形として評価できるのではないだろうか。
私は、三浦半島西海岸を中心に漂着陶磁器破片の採集と、破片を素材とする陶礫 (とうれき)アート作品を制作しているが、さまざまな海岸漂着物を創作の素材としたアートワークが、環境芸術学会の活動促進に一役買うことができればうれしいと思っている。

小名浜の環境芸術ワークショップをふりかえって  谷口文保
秋の小名浜で私は前田義寛氏と共に、漂着物を探して子供たちと一緒に海岸を歩いた。巻貝や流木、ガラスや陶器のかけら、子供たちは小さな宝物を嬉しそうに見せてくれた。当日の写真を見ると曇り空の肌寒い日だったようなのだが、私の記憶は不思議と暖かい。一番に思い出すのが子供たちの笑顔だからであろうか。
近年、ワークショップは美術館や地域のイベントとして大変盛り上がっている。私の出会う学生や若手アーティストにはワークショップに高い関心を持っている人が多い。地域の自治体や教育関係者からも「市民参加型の環境教育や文化事業」の新しい取り組み方として注目しているとの声を聞く。今回の小名浜でのワークショップは、その活動の魅力と可能性について考える良い機会となった。
小名浜では幼児から年配の方まで、幅広い年齢層の参加者が集うイベントになった。世代を超えた交流はワークショップ活動の魅力の一つである。一般的にワークショップは体験的で楽しいものが多い。参加者はレジャー感覚で気軽に申し込むことができる。アートや環境について特別な予備知識や経験がなくても参加可能な「ハードルの低さ」。それが若者や子供、家族といった多様な人々を集めたふれあい作りに大きな効果を発揮している。そしてそのことが結果的に、より幅広い人々をアートや環境教育に誘う近道にもなっている。
また、小名浜では地元参加者が身近な自然環境を再発見する機会にもなっていたようである。環境の時代を迎えて環境教育推進の声をよく聞くが、ワークショップはそうした取り組みにも適している。幅広い人々の関心を喚起していくには、学習型のハードなものだけでなく、ワークショップのような楽しみながら意識を高めていくソフトなものが必要だからである。中でも、環境と芸術が結びついたワークショップは大きな可能性を秘めている。芸術の持つ創造性や感性からのアプローチは、人々の心の深い部分にしっかりと働きかけるためである。それは芸術家にとっても大きな可能性である。地域の自然や人々との交流・共創は大きな刺激である。この様な「ふれあい」は芸術家自身を大きく変えていくのではないか。小名浜でのワークショップを経て、私はそんな思いを抱くようになった。
「環境と芸術をテーマとするワークショップで、地域に交流をつくる」それは環境教育・地域社会・地域文化といった現代社会の重要な課題に直結する活動である。環境・芸術・教育・地域など領域を横断した実践的な探求は、正に環境芸術学会の取り組むべき研究分野であると思われる。小名浜の一日をふりかえって、今回実施した企画がそうした取り組みのきっかけになればと願っている。

□懇親会/10月25日(土曜日) 18:00〜
アクアマリンふくしま/潮目大水槽前・小名浜海陸運送6号倉庫
大水槽前のパフォーマンスは貴重な体験。笙の高原聰子氏、デジタル音楽の石井拓洋氏による雅楽器とコンピュータの融合的作品<Aqua Node>はこのために作られた。暗い空間に巨大水槽上部から降りそそぐ青い光、人間の恣意を超えたゆったりとした魚の動きと水の揺らめき、笙の独特な演奏スタイル。デジタルな音が、時に金属的とも感じられる笙の響きや雅楽の音階と不思議に融合する。視覚と聴覚の刺激が互いに共鳴しあって増幅され、まさに時間と空間が一つとなった芸術といえるだろうか。
大きなエイが泳いできて水槽前で演奏している高原氏の頭上でしばし留まっていた。音を聴いているのかと思わせる動きで、大変幻想的だった。一瞬、3D映像を見るようにエイが水槽を飛び出して宙を舞うように感じられたのは、モントレー湾水族館から差し入れられたカリフォルニアワインにではなく、パフォーマンスに酔ったためか。
二次会はがらりと雰囲気を変えて作品発表会場でのクリストフ・シャルル氏によるサウンド・インスタレーションで、大スクリーンに映し出された映像とデジタル音楽を楽しんだ。こちらは赤い光のライトアップが、倉庫中央にそびえる肥料の山、コンクリートの擁壁、錆びた鉄柱やスレート壁を照らしている。これらの猥雑ともいえるざらっとした感覚が、シャルル氏の映像と音楽ともマッチして、一次会の透明感とのコントラストを際立たせた。

□口頭発表/10月26日(日曜日) 10:30〜12:30   
アクアマリンふくしま/マリンシアター
 今大会の口頭発表では、大会会場の環境と関係するものがあったことが特徴だった。地元・福島県の生活環境部からの環境保全領域・水環境グループによる「猪苗代湖及び裏磐梯湖沼群の水環境保全対策について」と環境共生領域・環境評価景観グループによる「磐梯山・猪苗代湖周辺景観形成重点地域における景観形成の取組みについて」の2発表、および高橋洋子氏の「水族館とコラボレートしたあーと (名古屋港水族館)」である。前者の発表では普段触れる機会の少ない自治体の地道な環境への取り組みを知ることができ、環境デザインに関わる学会員からもエールが送られた。今大会のテーマの一つである「交流」が口頭発表においても実現されたといえよう。
毎回発表の記録を更新中の大森正夫氏 (京都嵯峨芸術大学)は「観月の風景-銀閣に観る十五と十三の夜-」と題して、また土屋和男氏 (常葉学園大学) は「静岡県における火の見櫓の調査と『火の見櫓サミットin榛北』の実施報告」を発表された。蔡葵氏 (東京芸術大学大学院) の「動く造形における時間の表現」も合わせ6件の発表は、時間的にタイトではあるものの充実していた。 発表者が増えていくことを望むが、全発表を聞くことができるのも本学会の規模の利点か。